Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

入札の数だけ抱きしめて

僕は給食会社の営業部長。一ヶ月前に某案件の入札の指名を受けた。公的な施設の給食業務だ。競争入札なので最も低い金額を入れた業者が落札することになる。なお最低制限価格はなし。募集要項と仕様書を確認したところ「安全、安心の給食を提供してほしい」とあり、それを担保する決めごとがズラズラーっと記載されている。報告書が多い。目を通しながら「でも最安値の業者と契約するのだよね」と醒めた気持ちになる。「最高の安全・安心を最安で。提出報告書は多いから覚悟してね」と真顔で宣言している。すごい。学校給食で内容や食中毒の問題が起きると、すぐに物価高がー、安全衛生管理体制がー、という話になるけれども、僕は契約と仕様設計の問題だといつも思っております。

募集要項には、現在の業者が雇用している現場スタッフの雇用を考慮しろとある。短い準備期間で業者を切り替えるためには現スタッフの受け入れは必須である。今回は10月1日業務開始である。9月30日までは現業者が運営。9月30日は水曜日。通常運営。時間的猶予はないが給食業界では当たり前である。安心安全どこいった。入札あるあるで公示から開札までが約2週間である。質問事項の締め切りが定められており、回答は全参加業者に向かけてされる流れだ。「現在のスタッフを雇用するために、現在の雇用条件を教えてほしい。でないと委託費用が困難である。支障があるならざっくりでもかまわない」と質問した。回答は「現業者の雇用条件は把握していません」のひとことで終了。考慮しろというから考慮する材料が欲しいのですが…。どうしろと。気をとりなおして「では現在抱えているスタッフ数、社員とパートの数だけ教えてください」とメールを送ったら「質問事項の〆切を過ぎているから回答できません」と拒絶された。どうしろと。だったら最初に誠意ある回答しろよと。まあ、質問事項の〆切は決められているとおりだけどさ…というもやもやした気分になった。心が寒い。営業マンは孤独だ。誰か抱きしめてくれ。

これらは公的な給食案件あるあるである。マントラのように唱えられる「安全安心」。ナム・キューショク・アンシーン・アンゼン。競争入札で最安値を入れた業者に決定。現場説明会はなく実際の現地を見る機会はなし。質問期限は一回限定の対応。仕様書は日時を変更しただけのほぼコピペ。説明会を開催すれば役所側の担当者が多く出席して、半数はひとことも発言しない。そして「正直ベースでお話しさせていただくと」という謎のフレーズを連発して仕様書に記載されていないことを話し出す。最初から正直に話してくれ。以前参加した地方自治体の給食案件の説明会で担当者が「正直ベースでお話しさせていただくと、ここ数年ずっと赤字なんですよ。どうしたらいいかわからない」と言ったときは正直すぎて馬鹿なのかと思ったこともある。思い出すだけで心が寒い。抱きしめてくれ。

ここ数年、地方自治体、市役所の食堂が閉鎖するというニュースを見るようになった。長年市民に愛されてきた市役所食堂だけれども、業者が撤退(廃業)することになり、運営が厳しくなったというニュースだ。物価上昇や労務費のアップ、世の中のニーズの変容といった社会の変化が原因とされて、市民の憩いの場がなくなるのは寂しいけど時代だから仕方ないよね、というセンチメンタルな感じのニュースになっている。

社会の変化はあるが、それよりも発注側(地方自治体)のコンペの設計に原因がある制度設計に原因がある。コンペを実施すると露わになる。売上データを業者に任せているために把握していなかったり、「市民のための食堂だから」という理由で価格設定を実質決められていたり、現状は売上が低迷していうるけどリニューアルすれば上向くでしょうという根拠のない希望的観測に立ったものであったり、民間の皆さまのノウハウを活用すればまだまだ可能性があるなどと企業努力に過度な期待をしたり、まともな仕事をしていないのだ。だいたい、企業努力をしたことがない人が口にする企業努力ほど信用できない言葉はない。

発注側(地方自治体)が時代にあわせたアップデートをしてコンペを設計していれば、いくつかの食堂や給食施設は生き残れたかもしれない。民間の社員食堂は運営できているのだから。役所の食堂が今まで運営できていたのは、本来発注者(地方自治体)がやらなければならない努力を、民間の業者が代わって文字通りの企業努力でなんとかやってきただけだ。甘えてきたのだ。その甘えを新たな、次の業者に求めるのだ。つまり仕事をしていないのだ。そしてコピペ仕様を自信満々に出してくる。寒い気持ちになる。抱きしめてくれ。

公的な入札なんてずっとこんな体質で変わらない。今回の案件も、リスクを背負いたくないので、落札できない金額で入札して終わりにした。最安値を入れた業者が最高に安心安全な給食を提供することを今は祈るばかりである(所要時間28分)